6 February 2011

錫杖岳デビュー

本当に面白い山行だったので、大事にしているうちにもうひと月以上経ってしまった。そろそろ書かなきゃ。

2月4日(金) 新高円寺から中野で電車を乗り間違えてしまい、予定時刻10分遅れて21:40に武蔵小金井着。今回のパートナーである谷口ケイさんと合流。おなじく錫丈へ向かう坂本健二さんの車に便乗させていただき移動、途中で中島健郎さんも合流新穂高温泉へ向かう。ケイさんと坂本さんはアルパインに良く一緒に行っている仲間。今回は4人で一緒にテントを張ることになっている。

今回ケイさんとどこか登ることになり、大谷不動か錫丈で計画を立ててみたが、一緒に行ける人(ケイさんも私も車を持っていないので制限がある)との兼ね合いなどで、錫丈となった。以前から行ってみたかった私は、大喜びでルートを調べたが、行けそうなのは3ルンゼくらいしかない気がした。

夜中1時過ぎに到着した新穂高温泉のバスターミナルのトイレでビバーク。初見参の私以外は、みななれた手順で寝る体制に入っている。私はまわりの様子をうかがいながら、寝る準備。

2月5日(土)4時起床。テルモスのお茶を飲みながら朝食をとっていたら、みなの行動に後れをとってしまい焦る。とにかく車に一度荷物を詰め込み、登山口近くの駐車場へ移動。そこで、再度パッキングなど体制をととのえて出発準備をするのが手順のようだ。
4:40頃暗い中を出発。車道から急斜面の登りとなる。わかんも持参しているが、トレースがばっちりと残っていたので、歩きやすい。宿泊装備、登攀具などずっしりとくるザックの重さで息があがるが、これも楽しみのひとつだ。

途中一回渡渉があるが、ここで水に浸かってしまうとアウトなので緊張しながら通過。あとは、ひたすらトレースを上へ。約3時間弱でクリヤの岩小屋着。先に到着した坂本さんと中島さんが岩小屋の下にテントを設営してくださっていた、それを引き継いで彼らに先に登攀へ出発してもらう。快適に生活できるよう、ケイさんと一緒に雪面を整地してテントをしっかり建てる。荷物を整理していざ取り付きへ。予報ではあまり天気がよくなかったのだが、雲があるとはいえ、晴れ間が見える。
8:20頃3ルンゼ取り付き。ケイさんトップで、特徴的な形状の岩のルンゼを進む。60m一杯にロープを伸ばしてコールがかかる。トライカムなど上手にセットされたリードに感激しつつ登る。さすがだ。自然物を利用した登りは、その人の登りが直に感じられて、フォローしながらわくわくうれしい気持ちになる。ビレー点についたときは、「すばらしいリードだったね!」と思わず言ってしまった。
3ルンゼの取り付き
良いリードを見ると、登りたいというモチベーションが高まってくる。2ピッチ目はIV 級程度の岩から始まるのだが、ホールドが細かくとても微妙なムーブで、2mくらい落ちてしまった(本チャンでほとんど落ちたことはないのに‥)。幸いモチベーションは衰えなかったが、あっさり人工にして乗り越えることにした。岩場から雪壁へ。雪を払いながらブッシュで支点をとりながら登る。60m一杯に伸ばしてビレイ。
2ピッチ目
ビレイ点に到着したケイさん。良い顔だ。
3ピッチ目ケイさんリード。チョックストーンを回り込み、大きなムーブでさらに上部の雪の廊下へ。本来はそろそろ氷が出てくるはずなのだが、まったく氷の気配がない。時期によっては、スクリューでばっちり支点がとれるはずなのに。
3ピッチ目
岩穴のような場所でケイさんのビレイで4ピッチ目。逆層の岩場で悪い。早々に人工にしてしまうが、人工から岩へ乗り移るところで、滑る。アイゼンの爪がしっかり載せられるようなスタンスがないのだ。右や左を試すが、非常に難しく、お手上げなので、ケイさんにリードを代わってもらう。ケイさんもしばらく試してみるが、やはり悪いと言っている。以前登っているはずなのになー、というが、ずいぶんと様子が違うようだ。あまり無理することもないので、ここで敗退。
3ピッチ目終了点から懸垂下降
テントに戻って水用の雪を準備して、私はテントの中で水づくり。ケイさんは水場を探してくる、と出かけていった。しばらくして、水場があったよ、と戻ってきた。暗くなりはじめてから、坂本さんと中島さんが1ルンゼから戻ってきた。とても状態が良かったらしい、1ルンゼはチャンスだと言っている。ケイさんは以前1ルンゼを敗退しているということで、登りたいようだ。夕食は、ケイさんが準備してくれたクリームシチュー。具がいっぱいで、とてもとても美味しかった。

2月6日(日) 外は星がきれいで、天気は良さそうだった。今日は1ルンゼに向かうことにする。1ルンゼは陽が当たるので、氷の部分は早いうちに登らないとちょっと怖いかもしれない。
1ルンゼ取り付き
1ピッチ目、ケイさんリード。途中、スクリューも効き良い感じでロープが伸びる。フォローすると、氷が狭まっていく部分がけっこう悪く、良くリードしたなー、と思う。ケイさんは、悪いところが得意らしい。
1ピッチ目
2ピッチ目は雪のルンゼから、傾斜のある岩と氷のミックス。ミックスに入る部分に残置の下降用アンカーがあるので、何かあってもここで止まるだろう、と先へ進んで行く。しかし、上の氷は甘く薄い。右手のクラックにロックスをセットしていくが、イマイチな感じだ。それでも、モチベーションは高く、楽しんでロープを伸ばす。ひとつ上の残置支点でビレイ。確保していると、ドンッと上部から音がして雪崩が落ちてくるのが見えた。あわてて岩陰に身を隠し、ケイさんにコールすると大丈夫!と声が返ってきてホッとする。暖かくなってくるにつれ、上部の雪が崩壊して頻繁に落ちてくるようになっている。大きなのが来なければ良いがと祈るような気持ちになる。ケイさんが登ってきた。「このピッチなかなか面白かったねー!でもロックスははずれてたよ!」と言われてしまった。反省。今後の大いなる課題だ。
2ピッチ目
3ピッチ目。ケイさんリード。どんどん暖かくなってきて、氷がゆるくなっている。ケイさんはリードしながら、「悪い」と言っている。岩の方へ逃げたらいいんじゃないか、とか下から勝手なことを言う。そこまで行くのも悪いようで、かなり慎重に越えてコールがかかる。フォローしてわかったが、これは実に悪いピッチだった。暖かさで氷が解け始めており、アックスを刺してもアイゼンを刺してもどこもぐずぐずな感じなのだった。さすがに悪いのが得意なケイさんでも、これは怖かっただろうことがわかった。
3ピッチ目
4ピッチ目、私がリード。アンカーはスクリューが半分入った物にタイオフして流動分散している。絶対に落ちることはできない。上はバーチカルに近く、左か右に逃げたいけれど、上部がうまく繋がって見えない。バーチカルに突っ込むのは、今の自分の力量ではぎりぎり。落ちる可能性もあるかもしれないことを考えると、このアンカーでは2人とも危険に晒してしまうかもしれない。登ったり下りたり可能性を探って様子を見たけれど、氷も薄く悪いのだ。やっぱり私には無理だと判断。今回もケイさんにリードを代わってもらう。ケイさんが登り始めたが「思ったよりも立ってて難しく氷が悪い」ということで、残念ながらここでも敗退とすることにした。

懸垂して下降。残置のカラビナ1個にロープをかけるだけでは心元ないので、バックアップに残置シュリンゲにもロープを通しておくが、60m一杯に下りたところからのロープの回収は重くなってしまった。回収の効率化と安全性にどこで線引きをするのかは考える必要がある。
空は青く、穂高の山々も美しい。本当に楽しい登攀だった。もっともっと、登りたくなった。

予定の下山時間を過ぎても、坂本さんと中島さんは下りてこなかったので、パッキングだけして、お茶など飲みながら待つ。こういう大きな壁での冬期ミックス登攀は初めてだったが、ケイさんからは「ふつうにちゃんとリードしてたじゃん」と言われて、少しほっとした。ケイさんにとっては、女性同士でパーティーを組んでの本格的な冬期登攀はこれが初めてだったのだと言われた。

だんだんと暗くなってきたので、ケイさんとふたりで坂本さんと中島さんを迎えに行くと、途中で下りてきた彼らと会った。暗くなる中を下山。トレースの側壁はそこここに雪崩の後が見え、ちょっと緊張する。無事下山し、温泉で体を温めてから帰京した。

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